dof inc. | dof talk | AI時代の金融ブランドのハブになる—— 『エムット』誕生の舞台裏【前篇】 
2026.08.25

AI時代の金融ブランドのハブになる——
『エムット』誕生の舞台裏【前篇】

2025年6月、MUFGはグループの個人向け金融サービスを一つに束ねる新サービスブランド「エムット」を始動させました。銀行、証券、カード、資産運用——これまでバラバラだったサービスを、「お金のあれこれ、まるっと。」というスローガンのもとに統合。「一人一人の未来に、もっと豊かさを。」というミッションのもと、デジタルバンクの開業などを目指すリテール変革の中核とすべく展開しています。

その構想のきっかけとなったのは、一杯のハイボールから始まった、ひとつの出会い。

今回の dof talk は、MUFG でリテール変革を率いる株式会社三菱UFJ銀行 常務執行役員/リテール・デジタル部門副部門長の山下邦裕さん、dof代表/クリエイティブ・ディレクターの齋藤太郎(以下、齋藤)、そして「サブブランドをつくる」という戦略を提案し、ブランド開発に伴走した dof の執行役員/ブランディング・ディレクターの工藤拓真(以下、工藤)が、エムット誕生の舞台裏を語ります。どふぞご覧ください。

一杯のハイボールから始まった。

ー聞き手
そもそも、お二人の出会いはどこからだったのでしょうか。

 

ー齋藤
COIN+(コインプラス)を展開するリクルートMUFGビジネス 代表取締役社長の夏目英治さんとは旧知の仲だったのですが、その夏目さんから「すごく面白い人がいるので紹介したい」とご連絡を頂いたのが最初でした。「オフィスに遊びに行くので、dof名物のハイボールを一緒に飲みませんか?」とお誘いをいただいて。これまでメガバンクの偉い方とお会いする機会はあまりなかったんですが、「年齢も近くて、こんなに面白い方がいるのか!」と凄くうれしくなったのを覚えています。自分とは遠い世界の人かなと思いきや、山下さんからは湧き出るようなエネルギー、確かな志と思想を感じました。競合がどうこうではなく、世の中や、自社の課題と真正面から向き合っていて。さすがトップの会社だな、と感心しましたね。

 

ー工藤
お会いしてすぐでしたね。開口一番、「うちの会社には、できてないことが、いろいろありまして」と山下さんがおっしゃっていて。それがとても印象的でした。

 

ー山下さん
当時の我々は多くの課題を抱えており、日々それを夏目さんにも相談していたんです。お客様に届けるべき価値が、ちゃんと届いていない。自分たちが「いいサービスがある」と思っていても、伝わらなければ意味がないんですよね。そこで夏目さんが、「それを世の中にちゃんと伝えたいなら、面白い人がいる」、ということでご紹介いただいたのが、齋藤さんと工藤さんでした。

“甘噛み”じゃない人を、探していた。

ー山下さん
お会いしていろいろお話を伺った中で、特に強く印象に残っているのが、例えばクライアントから「TVCMをつくりたい」とオーダーがあったとしても、「TVCMをつくることが、本当に正解か」「もっと根幹から考えてみないか」と議論をする姿勢。広告ありき、CMありきではなく、クライアントの事業の顧客体験をベースに、あるべき姿を模索していく——その進め方そのものが、僕のやりたかったことと、ピタッと重なったんです。

 

ー齋藤
ありがとうございます。

 

ー山下さん
単なる広告代理店やクリエイティブエージェンシーではなくて、事業を俯瞰して見るパートナーとして、違う視点から「あなたたちはこう言うけれど、世の中からはこう見えている。だからこう変えなきゃいけない」と、ちゃんと言ってくれる。ダメなものはダメだと言ってくれる、本当のプロ。そういうパートナーを、ずっと探していたんです。初回のミーティングで、「やっぱり、ここだ」と感じました。

 

ー聞き手
そのように感じられたのはなぜですか。

 

ー山下さん
ビジネスの場では耳ざわりのいい会話が多い。噛みついているように見えて、”甘噛み”になる。当たり前かもしれませんが、発注者と受注者の関係ではどうしても”甘噛み”の関係になりがちなんだと思います。だから、”甘噛み”じゃなく、本気で向き合ってくれる人は、すごく貴重でした。

サブブランドという、すっとんきょうな提案。

ー聞き手
最初から、新たなサブブランドをつくる話があったわけではないんですね。

 

ー山下さん
そうです。まずは「こういう存在になりたい」という話から始めましたね。

 

ー工藤
お話を伺って、このままの状態では「MUFG が新しいサービスを出しました」と言っても、なかなか届かない。議論を重ねるうちに「みなさんご存知、赤い銀行、MUFGの〇〇です」という話法そのものに、限界があると感じるようになりました。ある意味、得体の知れないベンチャーのような、新しい存在としての異質感が必要なんじゃないかと。新鮮な驚きをもって受け止めてもらわないと、振り向いてもらえない。だから「銀行はもちろん、グループ全体を横断するサブブランドを、新たに立ち上げませんか」というのが最初のご提案でした。

ー山下さん
グループには本当にいろいろな機能があり、会社の名前も、サービスの名前も、ポイントの名前もバラバラでした。しかし「バラバラのままではお客様から見て伝わらない」という課題が議論の中であぶり出されてきました。銀行口座やクレジットカードにブランド価値を感じていただきながら、銀行とカードだけでなく、さらにいろいろなサービスを使って頂く——その核となるものが必要でした。海外や、リテール以外の領域も含む「MUFG」 という看板だけでは大きすぎて、リテール領域に直接ひもづけるべきブランド価値が、なかなか接続できなかった。だから「エムットというサブブランド」の提案をいただいたとき、「確かにそうだ、この方が伝わる」と、すごく腑に落ちました。今もリテール全体を管掌している山本忠司(株式会社UFJフィナンシャル・グループ 執行役専務 リテール・デジタル事業本部長兼グループCDTO)と話し合い、「これで行こう」と決意しました。

 

ー工藤
正直に言うと、自分でもかなりすっとんきょうなことを言っている、という自負の上でのご提案だったんです。これまで大企業のお仕事もたくさんやらせて頂いてきたので、否定の材料はいくらでも出てくるだろうな、と。それなのに、最初のコンタクトで、山下さんに「それだ」とおっしゃっていただいて、すごくビックリしました。

血肉になった、徹底した言語化プロセス。

ー山下さん
皆さんとの議論で、すごく大切だったと思うのが、徹底した言語化のプロセスです。

 

ー工藤
実際にお話を伺っていくと、「リテール」って言葉から思い浮かぶことの、十倍、二十倍の業務があるんです。それを束ねるとしたときに、お客様から見た接点は何なんだろう、と。僕らは実際ド素人なので「それって、何が違うんですか」と、ひたすら伺っていました。

 

ー山下さん
そうそう。そして、いざ率直に質問を受けると、ゼロから新鮮に考え直すことになる。すると、意外なところに良さが見つかったりする。大変でしたが、その作業がいまの血肉になっています。

 

ー工藤
山下さんが、そういう問いをごまかさずに向き合ってくださるのが、印象的でした。もちろん、調整が必要なこと、まだできないこと、時間がかかることもいっぱいある。半年でできることもあれば、二年、三年かかることもある。それでも、まずは「狼煙を上げよう」と。足りないことを全部テーブルに出して、「ここは今できる、ここは後から来る」と正直に整理しながら、それでも、しっかりと骨組みを整えていこうと考えてくださったのが、本当にありがたかったです。

ー山下さん
最初にエムットを世に出した時のことを振り返る際には、いまだに「ハリボテで出した」と言っているんです。でも、一度こういうものを出すと、戦略も、施策も、みんなの考え方も、これに引っ張られてついてくる。ハリボテだからこそ、よいサービスがどんどん中身に追加されていく。今、新たに構想しているデジタルバンクや証券との連携も、やがて追いついてきます。しっかりした土台の上で、新しいブランドがちゃんと立つ。狼煙を上げて、よかったなと思います。最初は懐疑的だった人も多かったと思いますが、具体的に進みだすと味方も増えるし施策も加速する。「ハリボテ」と言いながらも、当時のあのタイミングで出せたのは、本当に良かったと思っています。

 

ー齋藤
議論のスタートが少人数だったことも、成功の要因でしたね。おかげで、腹を割って、つっこんだ議論をさせていただくことができました。

 

ー山下さん
まさに。会社を離れて、この場所(dof)で、立場を超えて意見を戦わせたことが、間違いなく原動力になりました。

出会いから、サブブランドの提案、そして「狼煙を上げる」かたちで始まったエムット。
後篇では、「銀行から、金融へ」という壮大なテーマと、そこから見えてくる「大企業はどうすれば変われるのか」という変革論を語ります。

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写真・文:宇佐見 彰太(dof)