生命力を感じ、みんなが希望をもてるBRANDへ。
LORANS Re BRANDING PROJECT

当時23歳の福寿さんが立ち上げた株式会社ローランズ。お花屋さんとして始まった小さな会社は、障害者雇用や企業との共同雇用づくりにまで活動を広げ、いつしか「お花屋さん」という器に収まらなくなっていました。
そんな中で始まった約2年間のリブランディングプロジェクトを経て完成したのは、ブランドアイデンティティ「人を咲かせる花屋」、ブランドスローガン「みんなみんなみんな咲け」、9つのバリュー、そして新ブランドロゴや新ブランドカラー"ウォームグレー"といった新しいブランドデザイン。
「LORANS」の新しい姿が、どのようなプロセスで立ち上がったのか。ローランズ代表の福寿さん、dof代表の齋藤太郎、dof執行役員の石井岳、五島列島なかむらただし社のコピーライター・中村直史さん、Hotchkissのアートディレクター・水口克夫さん、デザイナーの尾﨑友則さんで語り合いました。どふぞ、ご覧ください。

素敵で複雑で繊細な事業を、紐解いていく

ー石井
今日はこの約2年間のリブランディングプロジェクトについてお話を伺えればと思います。福寿さん、プロジェクトが始まる前のローランズが抱えていた課題や、目指す姿についてはどのようにお考えでしたか。
ー福寿さん
ローランズの創立は2013年で、当時の私は23歳でした。最初はお花屋さんとして始まった会社なんですが、3年経って自社で障害者雇用を開始し、その後自社の雇用経験に基づいて障害者雇用のサポートを始めました。東京都の国家戦略特区と連携し「障害者共同雇用」という新しい仕組みも作ったりしている中で、内から見ても外から見ても、もはや「お花屋さん」の領域を超えた状態になっていました。「お花屋さん」という枠にとらわれないところに自分たちの存在を定義したいという思いは元々ありましたが、どうやって表現すればいいのか、何を軸にすればいいのか、というのが課題でした。
ー齋藤
福寿さんはもともと僕のテニス仲間でした。当初は、どういう仕事をされているのかも知らなかった。なんとなく「障害者雇用もやっている、ソーシャルなお花屋さん」というイメージで、具体的なところまでは知らなかったし、外にも届いていない印象でした。
ー福寿さん
当時はそうでしたね。
ー齋藤
そんな中で、彼女がICC(dofも例年参加するINDUSTRY CO-CREATIONという国内最大級のスタートアップカンファレンス)のビジネスピッチに出ることになって、プレゼンを磨いてほしいというご相談をいただいたんです。それでプレゼンを磨いて、実際に何人かの投資家や経営者仲間にこのビジネスのことを説明すると、「これすごいね」「可能性あるね」と言うんですよ。
ー福寿さん
あのときは、すごく嬉しかったです。

ー齋藤
ただ、すごいって言われている資料を見ても、正直僕にはあまりすごく見えなくて。だからきっと一般の人にも伝わりにくいんだろうなって思いました。そんなにすごいなら、もっとその良さが存分に伝わるような形にしないといけないんだろうな、と。福寿さんご自身としても、熱量と情報量がブワッと一緒に出てくるので、時々「あれ、何が一番伝えたかったんでしたっけ?」みたいなこともありましたね。その後の壁打ちの過程で、福寿さんの言葉も伝え方も洗練されていったと思います。そこに、言葉のプロの中村さん、デザインや見せ方のプロの水口さんと尾﨑さんも加わって、福寿さんの想いや事業の中身についてさらに理解を深めながら咀嚼していけば、いい形で世に届けていけるんじゃないかと思ったんです。また、福寿さんの話をじっくり聞いて受け止めることができるセンターマンとしてのプロデューサーの存在も必要で、そこを石井に担ってもらいました。
ー石井
最初に福寿さんとお話ししたとき、素敵なビジネスだなと思いました。一方、複雑で繊細なビジネスだからこそ、何を一番前にもってきてコミュニケーションをしていくのかが難題でした。福寿さんが障害と向き合う子供たちが通う特別支援学校に教育実習に訪れた経験から一貫して持ち続けてきた「障害を売りにしたくない」という強い思いや、「障害と共に生きながらもひとりひとりの強みを活かした価値の証明、生き方の証明がしたい」という信念をLORANSの新ブランドを通して世の中にどう伝えるか。ブランディングプロジェクト開始にあたって、「難しいけど意義がある!」ということを強く感じました。
それぞれが心を動かされて、クリエイティブチーム発足

ー石井
中村さんは、最初にこのお仕事の話を聞いたとき、どう感じられましたか?
ー中村さん
僕がローランズという会社のことを最初に知ったのは、ICCのソーシャルグッドカタパルトというピッチでした。そのとき僕は審査員としてローランズのプレゼンを聞いていて、その後、dofさんから「彼女のビジネスを分かりやすく伝えるためのものを作りたい」というご相談をいただき、原宿の店舗に伺ったのを覚えています。そのときはまだ僕も完全に理解できていたわけではなかったんですけれど、「とてもいいな」と思って、ぜひ力になりたいと強く感じました。
ー石井
力になりたい、と思えたのは、何が決め手だったのでしょうか?
ー中村さん
僕は長年広告の分野にいて、ちょっと広告に疲れていたところもありました。「売れればいい」というだけではない分野で役に立てないものかと考えて、独立後はずっと「自然・教育・福祉に関わることは、特に頑張りたいです」って言っていたんです。ちょっとずつ、そういう分野のお仕事に関われるようになってきたタイミングで、ローランズのお話をいただいた。福祉という括りでいいのかどうかは置いておくとして、自然にも関わるし、福祉にも関わるし、教育的な側面もある。これは本当にやりたいなと。福寿さんにお会いして話した感じも、ちゃんとハートで話す方だなと思ったので。
私たちは何者か?という問いと向き合う

ー石井
その後、世界観を作っていくフェーズで、水口さんと尾﨑さんにご相談しました。水口さん、ローランズのブランドづくりに参加するとき、どう感じられたか聞かせてください。
ー水口さん
いやもう、「騙された」と思いましたよ(笑)。
ー石井
(笑)。
最初に僕が水口さんに「太郎さんと一緒にこのお仕事でご一緒させてくれませんか」とZoomでご相談したときに、「なんで僕なの?」って言われたんですよね。
ー水口さん
そうそう(笑)。
その時、太郎さんが「いやもう、このお仕事は水口さんしかいない」って、めっちゃ熱く語ってくれて。本当に人たらしなんですよ、この人は(笑)。
ー福寿さん
私は太郎さんから、「水口さんは難しいことや、関心を持たれていないことを、人にどう振り返ってもらうか、振り返らせる方法を考え続けてきた方」だと伺っていました。それを聞いて、すごく心強く感じていたんです。
ー石井
すごく嬉しそうな顔してますよ、水口さん(笑)。
ー水口さん
で、ここから「騙された」の種明かしになるんですけれど──実際にこのプロジェクトに入ってみたら、もう「みんなみんなみんな咲け」っていう素晴らしいコピーがすでにできあがっていたんですよ。普遍的で、誰も否定できない言葉。これと、もう一つ、dofチームから出てきた「ウィズダイバーシティ」という考え方を、もっといろんな企業に展開していきたいというお題があって。この2つが、もう動かせない前提として置かれていた。これがある意味足かせになったんです(笑)。でも活動として非常に素晴らしいし、福寿さんの思想も素敵で働くひとも一生懸命で、そこに心を動かされました。


▲ プロジェクト当初のプレゼン内容

ー石井
2年間で色々な方向性を提案しました。福寿さんはどのように受け取られていましたか?
ー福寿さん
もともと、私たちは特別なことをやっている感覚がなくて。目の前にいる一人ひとりが「障害者である」「障害者ではない」とは全く関係なく、共に働く仲間として向き合っているつもりなんです。それを「個性」という言葉でも片付けたくないというか。「個性」って、色で言うとカラフルなイメージがあるじゃないですか。でも私たちは、カラフルというよりも、もっとシンプルに1色でいいんじゃないかと思っていて。
そこから議論を重ねて、最終的にたどり着いたのは、「私たちは色をつくっているのではなくて、色が煌めくための土壌をつくる仕事をしているんだ」ということでした。土壌をつくる仕事というのは、地味で、泥臭くて、でも、それこそが人間らしくて素敵なことなんだと。石井さんと話す中でこのことに辿り着いて、今まで「自分たちって何なのか?」ということを言語化できていなかったんだと気づかされました。「みんなみんなみんな咲け」というスローガンや、お花屋さんであることで華やかな世界をイメージされやすいけれど、実際の私たちは華やかさで語れるものじゃない、というか。

ー石井
福祉やSDGs、多様性って、いろんなカラフルな色で表現されることが多いですもんね。でも、福寿さんの中ではそうじゃなくて、その人たちが羽ばたくための土壌でありたい、プラットフォームでありたい、と。ブランディングの作業を通して、そこを言語化していただいたのが大きかった。
ー福寿さん
そうですね。福祉をやっている感覚ではなくて、目の前の人に向き合い続けたらこうなっていた。なので、「福祉の会社」と括られることには、強い違和感がある。わたしたちは、そこにはいないぞ、と。
ー水口さん
最初のプレゼンで決まらなくてガッカリしていたら、石井さんが僕のところに来てくれて。「LORANSを勝たせたい、もう一度このチームならできるから、一緒にやってほしい」と涙ながらに語ってくれたときは、本気なんだなということがひしひしと伝わりました。

ー石井
それ、水口さんと僕の妻しか知らない話ですよ(笑)
それまでの僕自身の反省もあって、感情が高まってボロボロ泣いてしまいました。
その後、「LORANSとして、わたしたちは何をしているのか?」ということを議論し続けて「人が咲いていく土壌をつくっている」という気づきに繋がり、「ウォームグレー」というブランドカラーに辿り着きました。
ー尾﨑さん
お話を伺うなかで、最初に福寿さんをはじめ皆さんが立ち上げてきたものは、すごく泥臭く、リアリティがあるものだと感じました。そこを大切にしたいとずっと思っていて。話が飛んでしまうようですが、ちょうどその頃、自分に子どもができたんです。役所へ手続きに行く中で、社会って結構いろんな制度や決まりごとがある中で、ルールや制度を設けてそこに当てはまっているか否かのチェックみたいなことが良い意味でも悪い意味でも何か一つの方向に向く時に作用しているように感じて、そこに少し違和感を感じていたんです。そうした体験の中で、AかBどっちか、みたいに決めきらず、心地よい曖昧さや余白のようなものがあることで人って豊かだったりストレスなく生活できてた部分もあるような気がしていて。そのことが、福寿さんが障害者の方を「障害者」というラベルで切り出さずに、既存の枠組みの外側でつくった「価値観」を中心に事業を広げているということと、自分の中で繋がったんです。だからカラフルというレイヤーとはまた違うところにある「グレー」を基調に、グレーゾーンの中で一番の最適解はなんだろうか、と考えました。AでもBでもない、具体的な色じゃない、中間的なグレー。それがブランドのストーリーを語るための鍵のひとつになるんじゃないかと思い、ウォームグレーを置くことにしたんです。

ー福寿さん
ウォームグレーがどうやって生まれたのか初めて伺って、すごくグッときています。私たちの中でも、ウォームグレーはまさに「これが私たちだ」と感じられる色になりました。私たちの一番の価値は、花の商品でも、雇用仕組みでもなくて、働く人たちがいる現場そのものだって気付きました。現場が、土壌が、ずっと磨かれて、続いていくことが大事で、それがまさにウォームグレーで描いていただいた、温かい土なんです。いい土壌さえあれば、そこで素敵な花が育っていく。それを信じていくんだ、と。LORANSというブランドの、本当に根底のものを表現していただいたなと感じています。
ー石井
太郎さんは、いろんな提案をしてきた中で、難しかったことや、感じたことはいかがでしたか?

ー齋藤
さっき水口さんが言っていたとおり、ある段階でひとつ結構いいものができたんですよ。福寿さんやみなさんに見ていただいて、「これいいんじゃないか」と思っていた。一度持ち帰っていただいたんだけど、しばらくして「ちょっと違う、もう少し違う」と。僕らも自信を持って提案していたけれど、なんとなく「障害者雇用」ということへの無意識のフィルターが作用していたことに薄々気づいている部分もあって、福寿さんのおっしゃっていたことが響きました。
そこからもう一度作り直そう、という流れになって、水口さんや尾﨑さんにはすごく助けてもらったなと感じています。「神は細部に宿る」じゃないですけど、僕らに見えないところにもものすごく手をかけて、助けていただいているなと。みんなで花を栽培するファームに行ったり、作業現場で話を聞くことで、リアリティを生で知れたというのも大きかったですね。
ブランディングの過程そのものが、ブランドを象徴する

ー石井
中村さんは「人を咲かせる花屋」という定義や「みんなみんなみんな咲け」というスローガン、そしてバリューと、いくつもの言葉を作りましたが、そのときにはどんなことを意識されていましたか?
ー中村さん
障害をもつ人々と一緒に働く。ということを、ちゃんと理解することに時間をかけましたかね。実際に中の人たちがどんな気持ちで、どういうことを目指してやっているのか。ずっとそれを聞かせてもらいながら進めていきました。すごく印象的だったのは、ローランズは花を届けているけれど、その背後で一人ひとりの人自体が「花咲く」ということをやっているんだな、ということ。そうやって花が育って咲いていくことと、人が育って咲いていくことが、全部メタファーとして繋がっている。これが本当にいいなと思って、「人を咲かせる花屋」という定義に行きつきました。
ー石井
「みんなみんなみんな咲け」というスローガンについてはいかがですか。
ー中村さん
「人が花咲いていく」と言いましたが、どんな人であれ咲く、ということを断言するのは難しいですよね。もしかすると、少しおこがましくもあるかもしれません。けれどそれでも、だれもが咲けると信じている。精一杯の願いがある。だから、その精一杯が伝わっていくといいなと思って、「みんなみんなみんな咲け」という願いの言葉が生まれました。この願いをみんなで唱える様子を想像しながら考えていたのを覚えています。
ー福寿さん
「願い」というワードが出てきたのが、すごくしっくりきました。だれもが花咲く社会って、もうロマンというか、果てしない夢だけど、「願いを込めて、活動を続けていく」ということに、私たち自身が腹落ちして、大好きな言葉になりました。

ー中村さん
水口さんは、9つのバリューをすごく強調してくれましたね。「土」「陽」「水」といったバリューのグラフィックボードを「作ろうよ」と言ってくれて。花が育っていくことと、人が育っていくことの、その通底するものを形にすることに、水口さんと尾﨑さんがアプローチしてくれました。
ー水口さん
福寿さんが信じているもの、そのリアルな部分をちゃんと残すためにも、バリューを形にできるといいなと思いました。実際に現場を回るなかで、天王洲の店舗で働くそれまでずっと心を閉ざしていた男性スタッフが「ここに来てよかった」と言っているっていうお話を伺って。福寿さんが本当に目指しているもの、大事にしていることが9つのバリューに込められているんだと確信できました。
ー中村さん
これはこのプロジェクトを象徴しているなと思っていて。こうやって時間がかかったこと自体が、ローランズの大事にしているプロセスと同じことを、僕らみんなで辿っているような感じがするんです。種が撒かれてから、自然の変化って時間がかかる。みんな待ったり悩んだりしながら、徐々に変化が起きていって。なぜか想像もしなかったいろんなものが芽を出して、咲いていくことになる。LORANSの素晴らしいところも、一人ひとりの成長を待つ。ここで咲かなかったらこっちで咲くかもね、というところに、とても希望を感じるんです。だから、LORANSのブランディング自体も、そうあってもいいんじゃないかと思いますし、実際にそうした道程を、みんなで時間をかけて辿ったこと自体が、すごくローランズらしいし、それは価値なんじゃないかなと、振り返りながら思っています。

ー石井
では最後に、これからやっていきたいこと、もっとこうしていきたいんだ、ということを福寿さんからいただけますか?
ー福寿さん
「私たちらしさって何か」が言語化できて、ローランズの大切なことを示す言葉とデザインがみなさまのおかげで生まれました。ここからが始まりだと思っています。ブランドに込めたLORANSの思想や価値観を、商品を通して世の中の多くの人に届けられるか。ビジネスを通じて、世の中の障害者雇用を少しでも前に進められるか。2026年7月1日に障害者雇用の法定雇用率が2.5%から2.7%に上がりました。目標数値が上がることによって企業が雇用を考える時に、数字の先にあるひとりひとりが自分を花咲かせながら自社の仲間として働けているのかをぜひ見てほしいと思っています。花屋から、人を咲かせる事業にこれから挑戦していく私たち、数字の先にある人の感情や想いと向き合って、誰もが花咲く社会の実現のために、ブランドを武器に活動していきたいと思います。
ー石井
ありがとうございました。LORANSのブランドを通じて、より多くの人が花咲く毎日を過ごせるように我々も引き続き伴走します。

