東宝グループ新スローガン
「Moments for Life
その時間が、人生の力になる。」
が生まれるまで。

『国宝』『鬼滅の刃』そして『ゴジラ』。日本だけでなく、グローバルで快進撃を続ける東宝グループ。しかしその裏では、「東映?東宝?」、その違いの認識も、世の中ではまだはっきりとはしていない。映画だけでなく、IPやアニメへの期待が高まる中で、歴史的にグループを支えてきた不動産事業の存在も含めて、「東宝らしさ」とは何かを再定義し、グローバルで戦う集団へと進化していく。そんな挑戦を、経営幹部だけでなく社員も巻き込みながら進めてきた「TOHO GROUP Branding Project」。前半は、CES2026やLas Vegasの最高峰エンタメをともに視察した松岡社長への現地インタビューをお届けします。
“東宝とは何か” 自分たちの言葉で語れなかった私たち

ー聞き手
TOHO GROUP Branding Projectの背景を教えてください
ー松岡さん
現在、東宝グループは映画や演劇だけでなく、アニメやIPを第4の柱としてグローバル展開を進めています。いま、こうしてdofのみなさまとラスベガスにいますが、明日の朝には移動して、Toho InternationalのGKIDSのメンバーに今回のブランディングプロジェクトについて説明する予定です。東宝に最近入った外国の方と話すと、「東宝らしさって何ですか?」と聞かれるんですよ。答えを求められるんです。でも、その答えがない。これが、これまでの課題でした。昔から東宝にいる人も、新しく入った人も。映画部門の人も不動産部門の人も、誰もが語れる東宝グループらしさが必要でした。それは、社員の拠り所となり、誰もが理解するきっかけになるものです。それが今回のプロジェクトで生まれたことは、グローバル化を本気で目指す私たちにとって非常に大きな意味がありました。今回、dofさんと一緒にプロジェクトを進める中で生まれた“Moments for Life その時間が、人生の力になる。”という言葉によって「TOHO GROUPはどんな存在なのか」「世界に数多あるエンタテインメント会社の中で、東宝らしさとは何か」「何を【北極星】としてビジネスに挑んでいるのか」それが明確になったことは、私たちにとって非常に大きな意味がありました。

ー聞き手
実際にやってみて、いかがでしたか?
ー齋藤
最初は、東宝という会社を理解するのがとても難しかったです。外から見えている東宝や、自分が思い込んでいる東宝らしさと、実際に中で働く東宝の方々が感じている東宝らしさが違う。外から見ても中にいても「これだよね」と思える言葉を見つけるために、丁寧に輪郭を掘り出していく仕事でした。そのために、東宝グループのビジネスモデル、歴史、カルチャーを丁寧に理解することに時間をかけました。みなさまの東宝への愛社精神も非常に強く、丁寧に扱わなければいけない領域だと感じました。
どの会社でも同じような難しさはあるのですが、東宝は特にその難易度が高かった気がします。一人ひとりがまだ何者でもない状態で、会社としてまだ存在しない未来を描いてグロースに貢献する、スタートアップの仕事とは違う。また、一人の強いリーダーが意思決定し、トップダウンで組織を動かすタイプの企業とも違います。
歴史があり、事業領域も多岐にわたり、さまざまなバックグラウンドの方々がいらっしゃる東宝グループ。そしてトップダウンではなく、「みんなで一緒に進めていきたい」と強く想う松岡さんがいらっしゃる。みんなが感じている、まだ言語化されていない何かを捉えるのは、簡単ではなかったですね。
トップダウンではなく、ボトムアップでやりたい。
ー聞き手
なぜパートナーにdofを選ばれたのでしょうか?
ー松岡さん
2024年にコーポレートコミュニケーション全般を担う部署(CC部)を立ち上げ、そのチームが中心となってブランディングプロジェクトを始めました。CC部は10社以上の候補を出し、得意領域・不得意領域やコストを徹底的に分析した結果、「最も適しているのがdofだ」と社内提案をしてくれました。東宝はトップダウンではなく、社員一人ひとりが自ら考え実行する文化を大切にしているため、アウトプットの良し悪しだけでなく、「自分たちで考え抜いた」と納得できるプロセスをどう設計してくれるかを、パートナー選定の重要な軸にしました。dofさんとも対面で直接お会いしてメンバーの方含めた人間性に惚れ込み、この人たちとならできると思えたのです。結果的には、dofさんとCC部、そして東宝グループのみんなとの相性も非常によく、「選んでよかった」と心から思っています。
ー齋藤
我々に期待してお声がけいただいたことは純粋にうれしかったです。松岡さんとは以前から知り合いではありましたが、仕事をご一緒するのは今回が初めてで、トップとして仕事に向き合う松岡さんの姿を拝見する機会となりました。この大きな会社を率いる姿を見て、より一層尊敬の気持ちが強くなりましたし、「この人を絶対に勝たせたい」と感じました。松岡さんが以前仰っていたのですが、「自分はたまたまこのタイミングで社長になっただけだ」と。これまで多くの先人の方々が、汗水垂らして映画産業を守り、利益を生み出して会社を筋肉質にしてきてくれたからこそ、今は会社として未来に投資ができる状態にある。そのタイミングで、たまたま自分がバトンを受け取っただけなんだと。だからこそ、それは“自分がやりたいからお金を使う”のではなく、会社の未来のために意思決定するということ。その責任はとても大きく、覚悟もいるし、正直しんどい立場だと思うんです。だからこそ、それを支える仕事をしたい、この人を勝たせる役割を担いたいと強く思いました。
安心につながった、ワンチームプロジェクト

ー松岡さん
すごく良かったなと思うのは、dofのみなさまが我々とワンチームになってプロジェクトを進めてくれたことです。結論ありきで進めるのではなく、時間をかけて我々に憑依するように入り込みながら、一緒に探していった感覚がとても良かった。それが何より安心につながりました。
インタビューでも、本音を言える人もいればそうでない人もいて、さまざまだと思うのですが、そうした全体の“ぼんやりと見えてくるもの”を丁寧に抽出して、エッセンスとして整理し、メッセージとして提示してくれたのは本当に安心できました。石井さんには100人以上の社員にインタビューしてもらいましたよね。
ー石井
おかげさまで、オフィスで東宝の社員の方とすれ違うと「お久しぶりです」と声をかけていただけるくらい、同じ社員のような感覚になっていました(笑)。松岡さんが「安心につながった」と言ってくださって、プロデューサーとして本当にうれしいです。こちらから一方的に提案をして、「どうですか?YESかNO」という関係ではなく、一緒に考えることを我々も大切にしました。コーポレートブランディングや企業理念は、そこで働く人たちが「自分の言葉で伝えたい」と思えることが何より重要ですので。
受発注の関係を超えて、一緒に大きな岩を掘り当てたような感覚を共有できたプロジェクトになったのは、本当に良かったです。

ー松岡さん
幹部を集めての合宿も良かったですね。時々やったほうがいいなと思いました。dofさんがうまくナビゲートしてくれたこともありますが、全く飽きることなく、本音もどんどん出てきた。同じメンバーで会社でやっている会議とは、まったく違う議論ができました。体操から始まってね(笑)。あれで一気に心が開けた気がします。
ワークショップも良かったです。長く一緒にいる幹部同士でも知らないことがたくさんあって、新しい発見がありましたし、チームとしての一体感も生まれました。

ー石井
ワークショップは、事前に全社員向けにも実施したんですが、とても良かったと思います。「自分の好きなエンタテインメントとは何か?」をテーマに、仲間同士で語り合うプログラムもすごく盛り上がりました。意外にも、普段エンタテインメントの仕事をされている仲間同士で「自分の好き」を語り合う機会はなかったんですよね。人によっては音楽やスポーツが“自分にとってのエンタテインメント”だったりもする。
東宝グループとして「娯楽」をどう捉えるのかを、自分の“好き”を起点に語り合うことで、社員同士の共通項も見えてきて、仲間としての視点も揃っていく。その意味でも、今後も続けていただきたい取り組みだと感じました。
お客様と私たちが、ともに感じられるスローガン


ー松岡さん
以前のスローガン「Entertainment for YOU 世界中のお客様に感動を」は、コロナ後の3年間、確かに私たちを前に進めてくれました。
ただ、社員との対話を重ねる中で、「この『YOU』に、私たちは含まれますか?」という率直な問いに直面したんです。創業者・小林一三が遺した「我々の享くる幸福はお客様の賜ものなり」という言葉は、まさにその本質を言い表しています。
私たち自身もお客様と同じ目線で喜びを共有し、その体験を次の創造につなげていく。―本当は、そこが不可欠なのに、少し足りていなかったのだと思います。
新しく掲げたスローガン「Moments for Life その時間が、人生の力になる。」には、私たちがつくる映画や演劇、アニメ、イベント、ショッピングセンター、街―そのすべてに共通する「時間」が、誰かの「人生を支える力」になってほしいという願いを込めています。そして、お客様の心が動く瞬間が、私たち自身をも力づけてくれる。―そのことへの感謝も、同じように込めています。お客様と私たちが、ともに感じられるスローガンになることを、このプロジェクトを通して願っています。

ー聞き手
プレゼンを聞いた当時の印象は、いかがでしたか?
ー松岡さん
他にもたくさん良い案があったので、最初は意見が分かれました。ただ、案を起点に「東宝らしさ」の議論を重ねていく中で、自然と全員の方向が揃っていった。そんな印象です。深く心に残る体験やサービスを創造して、人々の心を揺り動かし、人生を豊かにしていく。―それこそが、私たちの使命です。私たちの仕事は、たとえ「不要不急」と言われることがあっても、人々の心を動かし、人生に活力と喜びをもたらす力があります。そして、その瞬間に立ち会えることは、私たち自身の幸福にもつながっていくんです。
「世代や文化の違いも超えて、誰もが『人生は素晴らしい』と思える。そんなエンタテインメントやサービスを届けたい。」この願いは創業から続く根本の思いで、これからますます東宝グループ全体を突き動かす原動力になる。そう信じられたんですよね。この「Moments for Life」という新しいスローガンは、東宝グループで働くすべての社員にとって、仕事の意味や価値をもう一度見つめ直すきっかけになると思っています。仕事の仕方を変えてほしい、と思っているわけではないのですが、日々の業務や意思決定の軸が、「この時間は誰かの人生の力になるか?」という問いに置き換わっていくことを期待しています。東宝グループでは、どんな仕事も、必ず誰かのためにあり、その人の人生を豊かにする力を持っています。一人ひとりがその貢献を認識し、誇りを持てるようになれば、こんなに嬉しいことはありません。そして、この理念は、私たちの作品やサービスに触れるすべてのお客様への、東宝グループからの大切なお約束でもあります。私たちがお届けする価値が、皆さまの心に残り、人生の力になることを心から願っています。

ー石井
東宝グループの社員一人ひとりが一生懸命取り組む日々の仕事は、確かに誰かの人生の力になっている。―僕は、そう思っています。そう思える人が増えたとき、このブランディングプロジェクトは成功なんだと思います。「本当にその人の人生の力になっているのか?」と問いながら仕事に向き合う集団って、かっこいいし尊いと思うんです。人生って複雑で、正解がない。だからこそ、東宝グループが届けるエンタテインメントやサービスを通じて、「こんな人生も、あんな人生もあっていいんじゃないか」と心がふっと広がって、明日の活力になる。そんなふうに、多様な人生を肯定できる世界に、東宝グループの存在が少しでもつながっていったらいいなと思いました。
全員の想いが一致したプロジェクトになった

ー聞き手
最後に、今回のプロジェクトを振り返っての感想を教えてください。
ー松岡さん
dofトークだから言うわけではないんですが、dofのみなさんは本当に“人がいい”んですよね。結果だけを追いかける集団もいる中で、それだけじゃない。高いクオリティを保ちながら、きちんと納期は守ってくれる。プロジェクトが複雑になっていっても、プロとして“そこ”をきっちりやってくれた。コピーライターの中村さんを連れてきてくれた時も、印象的でした。「提案を押し付けるようなことはしない。いっしょに探し当てる」と言ってくれた。あれは、すごくいい仕事のやり方だなと思いました。そして最後に、こちらに“選ばせてくれる”プロセスがあったのも、納得感につながりました。
それぞれの方向性について、考え方を丁寧に説明してくれたんです。そのうえで、私たちが選んだときに、「私たちも、これになってほしいと思っていました」と言ってくれた。あの瞬間、全員の思いが一致して、「パートナーと一緒にプロジェクトができた」と心から思えました。良い言葉ができたことがゴールではなくて、この理念を意識して、使い続けることが大事だと思っています。そして、社外の方にもきちんと伝わるように、こちらが努力していかなければいけない。東宝グループの未来につながる言葉を、本当にありがとうございました。

