COLUMN

齋藤 太郎

Taro Saito

SXSW 2018 レポート #1

SXSW 2018 #1

先週の話になりますが。テキサスの Austinという街で行われるSXSWというイベントに行ってきました。これで3年連続4回目になります。備忘録の意味もありますが、自分の考えをまとめるため、そして最近は持っている情報を独り占めせずにどんどんシェアしていったほうが循環して新たな情報が入ってくるような気がするので感じたことを残しておきます。あくまでも僕の主観ですので、ここに書いてあることが全て正しいというわけではないと思いますが、年々注目の集まる同イベントに来年以降行くことを検討しているかたの参考にでもなればと思います。このままシェアをして頂いても構いません。
カンヌはGoalを見る場、SXSWはStartを見る場、というようなことが言われているようですが、確かにまだカタチになっていないようなプロトタイプの段階、サービスインをしたばかりのスタートアップのプレゼンテーションが聞けたりするのはSXSWの醍醐味のひとつです。また、Interactive、Film、Musicの違った3部門から構成されている中、違いはあれどどの業界からの参加者もモノづくりやクリエイティブが好きな人が多い、というのも特徴のひとつだと思います。アメリカンミュージックの本場と言われ、トランプ万歳的なテキサスの中でも唯一リベラルなAustinという街にクリエイティブごった煮のイベントが産まれ、それに興味がある人が集まってくるのは決して偶然ではないと思います。登壇するスピーカーや展示をしているサービスだけでなく、参加者も含めてイベント全体の空気を創り上げている感じがします
 2014年に初めて参加した時は日本からの参加者は数えるぐらいしかいませんでしたが、数年前から少しづつ増えてきて、今年はかなり多くの日本企業からの参加者がいました。それだけ日本においても注目をされるイベントになって来たのだと思いますが、ともするとこれはマーケティングの世界でよく持ち出される「キャズム越え」の状態に入ったのではないかと思います。なんと人口80万人のAustinの街に、世界中から40万人の参加者が集まるとのことです。この先数年この流れは続くのではないかと思いますが、良くも悪くもイベントが通向けのモノから一般化されたわかりやすいモノに変化していくのではないかと思います。スピーカーも2年前に退任したばかりのバラク・オバマが登場していましたし、今年もスピルバーグ、イーロン・マスク、アーノルド・シュワルツネッガー、イーサン・ホークなどのわかりやすいビッグネームの著名人が登壇していました。(こう言ったセレブリティを目にすることが出来るだけでなく、その気になれば直接質問が出来たりするのもSXSWの醍醐味です。イーロンマスクのセッションにおいてはSli.doという質問ツールを使用して参加者から質問を募ってインタラクティブな展開をしていました。)4年前は有望なスタートアップを探しに来ているVCの人たちとお会いする機会がたくさんありましたが、今年はほとんど目にしませんでした。(これは感覚的・定性的な話で正しいかどうかはわかりませんが)
 バッジは今まで毎回3部門どれも有効なプラチナムにしてきましたが、今年に関して言うとインタラクティブのエントリーだけで十分だと思いました。そもそもMusicとはスケジュール的にあまりかぶっていないということもあり、バッジがないと見ることが出来ないセッションがあまりないこと。Musicのイベントも、Interactiveのバッジで入場できるイベントがほとんどでした。また、Filmは日本語の字幕はありませんので、英語がわからないと意味がないし、限られた時間の中で映画を観る時間をとるのは意外と大変です。今年もスピルバーグ監督の「Ready Player One」が先行上映されていましたが、話題作に関してはどうせ数週間後には公開になり日本でも上映されることが多いので、映画評論家のかたや、よっぽどの映画好きではない限り、わざわざ時間をとって観る必要があるかどうかは微妙だと思います。ただ、街の中心にある、Paramountという古い映画館で鑑賞するのは別の体験価値があると思います。多くの人を感動させて来た歴史ある映画館での映画鑑賞は映画そのもの以外に別の没入感を与えてくれるように感じます。日本で言うところの歌舞伎座や寄席の新宿末廣亭のような感じでしょうか。今回僕はAmerican Animalsという事実に基づく窃盗団の映画と、CIAを舞台としたCondorというドラマの初回を鑑賞しました。スピルバーグが舞台挨拶で登場したReady Player Oneは4時間待ちで諦めざるを得ませんでした、、、
 毎年一番楽しみにしているAcceleratorというスタートアップによるピッチコンテストは10のカテゴリーにおいて2日に渡り行われましたが、今回も半分以上のカテゴリーのプレゼンを聞くことが出来ました。Acceleratorのピッチは2分のプレゼンと6分の質疑応答という内容なので、早口で英語で行われれるプレゼンから事業の内容を正確に理解するのが結構難しい。会場内はWi-Fiが飛んでいるのでパソコンを持ち込んでプレゼンしている会社のHPを調べてザックリ理解しながらプレゼンを聞くのがいい感じでした。僕が聞いた各社のプレゼン内容の説明と感想については別の機会に譲りますが、
 
全米で7000万人いる犯罪歴のある人の就職を助けるサービス(CEOが証券取引法で服役歴あり)
 
3Dプリンターで家を作るというイーロン・マスク的発想のサービス
 
高たんぱく質な食用昆虫を提供するサービス
 
 ホームレスにビーコンを配ってユーザーがすれ違うとそれぞれのホームレスのストーリーを知ることが出来て寄付が出来るサービス
 
など、日本にいてはなかなか知ることが出来ないユニークなサービスに触れることが出来ました。
 
単純にビジネスとして儲かるという視点だけではなく、社会問題解決型のサービスが色々とあったこと、トレンドでいうとブロックチェーンを活用したサービスやビッグデータをAIで解析するみたいな話は流石に多かったです。それと、Transportation technologiesというカテゴリーがあって、UBERやLYFTなどのライドシェアや自動運転が当たり前になっている世界での新しいサービスの話を色々聞けたのも興味深かった。このカテゴリーの審査員にはシリコンバレーのAutotech Venturesという、自動車周りの新産業のみに特化したVCの代表が参加したりしていて、つくづく日本はこの領域において周回遅れだなあ、と感じさせられました。
 3日目からはTrade Showという大きな会場で開かれる展示会が行われ、日本からの出店者もそこそこ話題になっていたようですが、世界各国政府が自国で有望なサービスやアイディアを一斉にプレゼンテーションしているのはなかなか興味深いです。ブラジルやイギリス、フランスなどが国として一角をデザインしてその中で各社がプレゼンテーションをしていたのに対し、日本は同じエリアにあるものの、まとまったデザインがされていなかったのが少し残念でした。またCESなどの展示とは違い、出展者のサービス内容もSXSWに出展する意図もバラバラのため、その意味の深読みをすることが結構必要でした。画期的に思われるサービスと、どこかで見たことのあるようなスマホアプリと、靴のブランドと、食料問題解決のNPOと、フィットネスサービスと、VRの展示が同列に並んでいる状態なので。最初はそこの理解に苦しんだのですが、僕なりの理解は、ファッション業界における「パリコレクション」のようなものなのではないかと思いました。そこでの参加者の反応はもちろん大事なのですが、自国で「SXSWに出店した」「SXSWで話題になった」というだけでPR効果や箔付け効果がかなりあるのではないかと。あとは実際に出展をすることにより、世界中の来場者から生のフィードバックや反応を得られることが出来、今後の開発に活かすことが出来るという点も大きいのではないかと思いました。日本の出展者の中では電通の榊さんらが3年越しで取り組んできた食をデータ化して時空を超えて運ぶという「SUSHI TELEPORTATION」がひときわ目を惹いていました。
 以上、本当に幅広で掴みどころがないというか掴みようがないようなイベントなので所感は人によって変わってくるとは思いますが、毎年確実に脳みそがグルグル撹拌されていい刺激になるイベントです。
今回は全体のサマリーを主観バリバリで書きましたが、次回は番外編としてグルメやエンタメを中心としたAustinの街の夜の部編をお届けしたいと思います!